今週の社会史(連載10回記念&新年あけましておめでとう2倍サービス特別編) ビートン夫人にとって、早起きは使用人はもちろん、女あるじの場合にも美徳とされてい たが、その「早さ」の持つ意味は両者のあいだで違っていた。 自分なりにゆとりを大事にする女中は、寝間で身繕いをするのにおれ相応の時間をかけたのち、夏は六時、冬は六時半 または七時までに必ず仕事についている はずである。これより早くては、冬には炭や蝋燭の無用の浪費を招くことになる。こう見ると心配なのは、無用の出費であって、哀れな女中たちの無用な努力の浪費ではないのである。 モリー・ハリスン(小林祐子訳)『台所の文化史』法 政大学出版局 筆者の大学で近現代を教えておられる先生は、技術史が専門なのですが、「台所の歴史」なるゼミを以前開いていました。なんで台所かといいますと、「家庭 でもっとも技術集約的な場所は台所である。従って台所を見れば家庭にどのような技術が浸透しているかが分かる」という訳なのです。その台所の歴史を、古代 から現代まで、英米の例を中心に述べたのが本書です。当然、台所の労働の中核を担う(担っていた)メイドさんの記述も多く、その歴史的変遷を辿ることがで きます。引用部は19世紀の章からですが、ことのついでに本書からもう一つ、16世紀の章から引用してみましょう。召使は遺言状に遺産分与者としてしばしばその名前を書き留められて いる。(中略)遺産は金銭ではなくて品物で贈られることが多かった。1521年、イー リー町のロバート・フレヴィルなる者は「予の召使ジェーン・コリンに1クォーターの大麦、同じくジェーン・バーカーに3クォーターの大麦、羊4頭、ならび に敷布1組」を遺している。二番目のジェーンが主人に一体どんな特別サービスをしたのか勘繰りたくなる!「メイドさんロックンロール」より上品で宜しいかと思われます(笑)。 なお、イグサは畳表ではなく(当たり前だ)蝋燭の芯などに使われていたそうです。 (2002.1.11.) |