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今週の一冊 第14


今週のお手つき

 ところが寝室で帽子の紐を解いている間、私は女中のハンナの声と何やら掴み合うような 物音を聞いた ように感じて、思わず聞き耳を立てました。(中略)彼女の立てる声は戸口に立っている私にさえ、聞き取りにくいほど小さかったのです。「旦那様、いけませ ん……離して下さい……私はあなたのものではありません……私のような身分の女に手を出すなんて……旦那様、奥様がお帰りになります……いけません……声 を立てますよ……」

ジョン・クレランド(中野好之訳)『ファニー・ヒ ル』ちくま文庫

 「世界最初のポルノ小説」と評される(1748〜49出版)作品です。イギリスで出た作品ですが、解説によるとそれまで大陸からの輸入でエロ本需要を 賄っていた英国が、この作品によって輸出国に転じたというくらいな評判だったんだそうです。騙されて娼婦(時に妾)となった美少女ファニーが辿る遍歴を一 人称で語っているという筋でして、上の引用はファニーを囲ってる旦那様が、気まぐれを起こしてファニー付きの女中に手をつけちゃうシーンで、これを見た ファニーは自分も対抗して浮気に走るのですが、まあ話の筋は割とどうでもいいです(笑)。あと余談ですが、本書は中野好之氏の訳以外に、吉田健一訳の版が 河出文庫から出ています。これはもともと三十年余も前の訳であるため、全体に“自主規制”が施されており、この女中の台詞自体が存在しません(でも当局か ら文句が来たそうです)。もっと余談ですが、コリン・ウィルソン(関口篤訳)『世界残酷物語』で は、18世紀人のセックスへの見方の例として、本書のこの シーンが引用されております。そこの訳はこうなってます。
 「お願い、ご主人さま、やめて……、あたしを放して、……あたし、ご主人さまのお相手の柄ではありません……あたしみたいな卑しい女にこんなことをする とお名前に傷がついてしまう……ご主人さま、お願い、奥様がもうお帰りになります……あたしがこんなことをしたら……声を立てていいんですか……」
 要するに、旦那様なのかご主人さまなのかは、好みの問題ということで。
 同時代の『パミラ』『クラリッサ』はまた日を改めて紹介したいと思います。

(2002.2.10.)

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