今週の救世主
不思議な噂が届いたのは、この絶望の局面でのことだった。その人は「ラ・ピュセル」と
呼ばれてい
た。もとは「処女」の意だが、俗語では単に「メイド」を指すこともあった。さしあたり、若い娘を連想させる言葉である。それが女だてらに、凄いことをいっ
ていたのだ。自分はオルレアンの包囲を解放し、シャルル7世をランスで正式に戴冠させる。(中略)後世にフランス愛国心のシンボルとなり、また聖女として
崇拝の対象ともなったラ・ピュセルは、むしろ本名の方が世に知られている。伝説の救世主、ジャンヌ・ダルクの登場だった。
佐藤賢一「オルレアン攻防戦」
(『戦略戦術兵器事典5ヨーロッパ城郭編』学習研究社)
佐藤賢一氏といえば、『双頭の鷲』などで著名な作家ですが、上の引用は学研の戦史ムックから。学研は最近この手のミリタリ系に力を入れていて嬉し
いのですが、いつの間にやら株価は百円を割ってしまっています。好きな本なら財布の紐が弛むマニア向け商売、果して会社を救えるか。それはともかく、英語
の maid も、辞書を引くと「少女、娘」という意味があり、元を辿れば「処女」の意の maiden
になるらしいので、フランス語と流れは共通の展開をしていたのかもしれません。大体において、ことばというものは時の流れと共にその意味が段々世俗的に
なってくるものではないかと思います。key
ということばが宇宙の神秘を解く象徴からただの鍵に変化していくように(出典:高山宏『ガラスのような幸福』)。などとというほどもったいぶる必要もあり
ませんが、ちなみに、女中という言葉も江戸時代はもっと身分の高い、一家の奥様くらいの意味だったのであります。
(2002.2.15.)
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