今週の一冊 第24


今週の政党政治

 このような後藤(新平)における鉄道の非政党化の志向は、明治四二年一二月の鉄道院職 員服制による制服の制定にもあらわれている。それは、従来現業員のみが着用していた制服を職員にも及ぼそうとするものであったが、後藤によれば、「制服は不 偏不党(原文傍点)と云ふ意を表彰する」ものであり、「制服は活動中常に軌道を逸せざるの感念を保 持せられしむことの牽制」であった。従って、後藤においては、制服励行を唱えることは、とりもなおさず「党弊」を戒めることであった。

三谷太一郎『増補 日本政党政治の形成 原敬の政治指導の展開』東京大学出版会

 この本をこんな連載のネタにしていいものやら…日本近代政治史の古典的と言ってよい一冊です。何しろ初版が1967年に出て、95年に増補版が出ている のです。さて、本書の内容はひとまず措いて、引用部は原敬の政治行動の中で、鉄道広軌化問題にどのように対応していったかという章なのですが、そこで原敬 に立ちふさがるのが後藤新平でした。後藤は鉄道に政党が関与してくることを防ごうと画策し、その一環に制服が位置づけられていたのです。結局は政党が鉄道 への影響力をかちとり、それが国鉄の赤字ローカル線問題やらさらには整備新幹線あたりまで繋がらなくはないのですが、それはまあともかく、制服制定には後 藤新平の性格もいささか寄与していたと思われます。北岡伸一『後藤新平』(中公新書)には実も蓋もなくこう書いてあります。
 「後藤は制服が好きであった」
 彼は軍服そっくりの鉄道員の制服を制定すると、自らそれを着て家に帰り、奥さんに見せびらかして自慢したなんてエピ ソードもあります。台湾総督府時代にも制服制定して物議醸したり、晩年ボーイスカウトの初代総裁になってこれまた制服制定したり、うーん、さすが。ともあ れ、「制服は不偏不党と云ふ意を表彰す る」と いう言葉は、コスカのスローガンにでもしてはいかがかと(笑)。
 全然余談ですが、筆者は台湾のゼーランディア城(台南にかつてオランダ人が建設し鄭成功が 奪った要塞)を訪れたとき、他の展示物に脈絡なく後藤新平の胸像が飾ってあって、説明文に「台湾の近代化に貢献した人」と書いてあったのを見たことがあり ます。でも台湾人も、後藤新平が制服マニアだったことは知らんでしょうな。

(2002.4.13.)

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