今週の一冊 第25


今週のフランス軍

一九一二年になってもまだ、フランスの兵隊はあいもかわらず青い上着、赤いケピに赤いズ ボン という制服だった。これはライフル銃の弾丸が二〇〇歩幅しか届かず、敵との距離がしごく接近していて、たがいに隠れて戦う必要のなかった一八三〇年当時の 服装だった。(中略)ところが、軍服を灰色がかった青か灰緑色に改めるという彼の計画は猛烈な反対にあった。赤いズボンを止めることは、重砲を採用しよう という考え同様、フランス陸軍の誇りとは相容れないものだった。(中略)元陸相のエティエンヌ氏は、議会での審議会でフランスのために弁護した。「赤いズ ボンを廃止する?  バカな! 赤いズボンこそフランスなのだ!」

バーバラ・W・タックマン(山室まりや訳)『八月の 砲声』筑摩書房

 第一次世界大戦が勃発した1914年8月の欧州を描いた、ピュリッツァー賞受賞作です。最近新しい版が出されたようですが、筆者の手許にあるのは 1965年の旧版です(アメリカで原作が出たのは1962年)。作者はユダヤ人だそうで、それゆえか特にドイツへの見方は極めて厳しいものがありますが、 大変詳しく面白い本ではあります。
 さて、引用の箇所はフランス軍の制服を巡る話ですが、19世紀までヨーロッパの軍服は、現代の我々の軍服に抱く印象とは 逆に、派手派手なのが通例でした。引用部にあるように銃の射程がそもそも短い上、銃に使う火薬が黒色火薬のため、発射する度に濛々と白煙を発するのですぐ に居場所が分かってしまい、保護色を使って隠れる意味がなかったのです。そのため、自軍をいかにも強そうに見せる派手な制服が好まれました。イギリス軍 のレッドコートなどがよく知られ、ナポレオン戦争の頃が派手制服の最盛期でした。ヨーロッパで軍装コスといえば、この手のナポレオニックが多いんでしょう ね。見た目が派手だから。しかしその恰好で二十世紀の総力戦に突入したとは、フランス軍はナポレオンの栄光の呪縛から逃れられなかったのでしょうか。

(2002.4.20.)

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