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今週の一冊 第33


今週のテレパス

 病人の看護を幸江から引き継いだ七瀬は、病人の望むところを病人が口にする前に悟れる とい う能力を持っていたわけだから当然理想的な看護婦であり他に望み得べくもないメイドである筈だった。ところがその七瀬に対してさえ恒子は口やかましく、病 床から七瀬に毒舌を吐き、無理難題を強いた。(中略)文字通り、「病人の心を先へ先へと読む」ことのできる七瀬の、どんなに至れり尽せりの世話に対してす らも、ひとつことを病床で執念深く反芻し続ける恒子の心の中では、あとになればなるほどあれには悪意があったのだと解釈されてしまうのである。

筒井康隆『家族八景』新潮文庫

 筒井康隆のよく知られた作品です。ご存知の方も多いと思いますが、人の心を関知できるテレパシーの持ち主・火田七瀬が、お手伝いさんとなって様々な家庭 を巡り歩き、一見平穏な人々の心の深層を抉り出す、本当に恐い物語です。
 さて、筒井康隆といえば、いわゆる差別表現を巡る「言葉狩り」を批判して断筆に踏み切ったりしたことでも知られています。そして、このサイトで散々使い まくっている「女中」という言葉は、テレビ局の「使用すべきでない言葉」の中に指定され、「お手伝いさん」などに言い換えるように指示されています。では 本書の中で、筒井康隆は七瀬の職業のことをどう書いているのか調べてみると、「お手伝い」が26回、「女中」が50回使われています。筒井康隆はこの家事 使用人という職業を、基本的には「女中」という語で表現していると思われます。ただ、本書は八編の連作短編から構成されていますが、「お手伝い」「女中」 という言葉が連発される話があるかと思えば、ほとんど出てこない話もあったりして、場合に応じて使い分けているともいえます(紙幅が無いので詳細な分析は 別の機会に)。
 引用部は、唯一「メイド」という言葉で七瀬の仕事を表現した部分です。何でここだけ「メイド」と書いたのか、それはそれで非常に興味ある論点ですが、あ あこれも分析するには時間が無い。
 なお、火田七瀬はこのあと『七瀬ふたたび』『エディプスの恋人』に再登場しますが、筆者は『家族八景』しか読んでいません。だって、『家族八景』の最後 で、七瀬はお手伝いさん辞めちゃうんだもん。

(2002.6.15.)

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