今週の一冊 第38


今週のパンチラ

 東京では一九二〇年代から、行先案内などをこなす女たちが、バスに採用されていた。い わゆるバス・ガールである。その出現は、あらたな婦人職業の擡頭として、話題をあつめている。
 つぎのように、彼女らの「イット(性的魅力)」をことあげする論客もいた。
「スカーツが短かいから、少し前こごみになったのを後方から見ると、ズロースが充分に判る。そこに性的魅力があって、それを当てこんでバスに乗る客があっ たとしたら、女性のイットを売り物にして、客を釣る事を考えた人の頭は確かに先見の明がある」(磯部真寿造『情怨暴露』一九三〇年)
 じっさいに、どれほどの男が、バス・ガールのズロースで魅了されたかは、わからない。またどれほど、その刺激が強かったのかも、不明である。しかし、そ こに「性的魅力」をかぎつけた男がいたことは、うたがえない。

井上章一『パンツが見える。 羞恥心の現代史』朝日 選書

 『霊柩車の誕生』『美人論』などで著名な井上章一氏の最新作です。女性の「パンツが見える」ことが何故恥ずかしいことになったのかを、様々な雑誌の記事 や小説の文章を頼ってあとづけた一冊です。大体大正時代頃までは、日本の女性はパンツに類する下着を着ていませんでした。何かの拍子に見えてしまうのはパ ンツどころじゃなくて・・・そこにズロースが登場したのですが、その時点ではズロースをはくことで以前は見えてしまう可能性のあった箇所が見えなくなると いう ことが評価され、ズロース自体が見えていることはそれほど大した問題とはされていませんでした。
 下着を見られる側がそれを恥ずかしく感じるようになったの は、1950年代以降であると井上氏は述べておられます。ただ、見る側がそれに価値を見出していたのは、人によってはもう少し早かったようです。その実例 が上記の引用部、先週紹介したバス女性車掌のズロチラ譚であります。筆者は本書を読んで思ったこと、「井上氏に是非『スパイスの秘境』のレポートをして欲 しい」・・・カレーミュージアムのメイド服ウエイトレスで著名な『スパイスの秘境』は、またスカートの下からドロワースが見えることでも知られておりま す。で もあれは見せるためのドロワースで、あの下には多分別途ショーツはいてるんでしょうね(情報求ム)。一体あのドロワースはどういう文脈に位置づけられるの でしょうか。それはまあとにかく、自らを好事家といいきる井上氏のスタンスも面白い一冊であります。あと、本書225ページの写真は・・・
(編注:カレーミュージアムの制服も、とうに昔語りとなってしまいました。残念)

(2002.7.22.)

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