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今週の一冊 第39


今週の労働運動(連載3クール完結記念特大版)

 阪神バスはもと阪国バスという小さな会社だったが、昭和24年阪神電鉄に吸収されて今 の名 称になった。そのとき、会社はバスの運転士にも車掌にも制服を支給しなかったので、いまでは語り草となっているゆかいな制服闘争が、「制服を支給せよ」と いうスローガンのもとに行われた。はたらくのに制服が必要だと言うのにくれないのだから、なにを着ようと自由だということになる。そこで車掌はわざと赤や 黄色や青のケバケバしい原色のブラウスを着て、下駄をつっかけて乗務した。運転士もできるだけ目に立つ恰好をした。ズボンの上に天理教の文字を染めぬいた ハッピや、八百屋のハッピを着込んで、その裾を運転台のうしろに垂らしたりした。いやでも乗客の注目を惹かずにはいない。どうしてそんなものを着るのだ、 と尋ねる客が出てくる。そこで、これこれの理由で制服の獲得闘争をやっているのだ、と説明して、乗客の理解と協力に訴える。世論へのたくみなアッピールで ある。

村上信彦『紺の制服 バスの女子車掌たち』三一書房

 1959年に出版され、はじめてバス車掌の悲惨な労働環境を公にし、当時大きな反響を呼んだと言われる本です。先々週紹介の『バス車掌の時代』も本書の 影響を大きく受けています、というか書いている問題提起や主張はほとんど同じで、同書は本書に写真を入れて内容がいくらか詳しいというだけの違いでしかあ りません。村上信彦氏は作家かつ服飾史家で女性史にも造詣が深く、『服装の歴史』『大正の職業婦人』などの著作で知られています。『服装の歴史』はこの分 野必読の文献といえるでしょう(先週紹介の井上章一氏は、その著作中で旧来の女性史や服飾史と異なった観点を打ち出したと述べておられますが、村上氏が旧 来の観点の一つとして想定されているのは確実です。もっとも筆者が思うには、村上氏の分析の枠組みはなお有効といえます。理由を述べている紙幅はありませ んが)。
 それだけに「制服」という文字を題名に盛り込んだ本書は、バス車掌の制服の意味付けや、女性の労働問題におけるバス車掌の地位などの考察が深く、読みど ころの多い本ですが、残念ながら入手は極めて困難です。
 本書には「制服の魅力」という一章が設けられ、村上氏の制服観が述べられています。一ヶ所そこからも引用 してみましょう。
 バスの車掌の制服は実用のためにつくられたものだから、なんの技巧も介在する余地がなく、おなじ紺一色の同じ密着感を保っている。そして、この上衣とズ ボンのバランスから、なんの飾りもない制服が、不自然なおしゃれ着よりもいきいきとした魅力を発散させている。その効果は一切のムダを排除した徹底した機 能性から生まれたもので、装飾がおしゃれであったこれまでの伝統にたいする革命である。
 機能的であるということは、着る人間を中心に考えられたということであり、それは着る人間の生活と一体化して魅力を生じさせる。デザインばかり優先した 服装は、肝腎の人間をおいてきぼりにした、服を売る資本の利益に奉仕したものに過ぎない。村上氏の主張を纏めるとこうなります。誠に含蓄ある言葉ですが、 服飾史と女性史に通じた村上氏が言ってこその台詞であり、制服マニアの人間が言ったって説得力ないですな(苦笑)

(2002.7.27.)

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