今週の一冊 第54


今週のナショナリズム

 第一次大戦は王朝主義高潮期の終焉をもたらした。一九二二年までに、ハプスブルク、 ホーエ ンツォレルン、ロマノフ、オスマンの王家は波間に消え去ってしまった。ベルリン会議には国際連盟(リーグ・オヴ・ネーションズ、諸国民の連盟)がとって代 わり、そこからは非ヨーロッパ人も排除されることはなかった。このとき以降、国民国家(ネーション・ステート)が正統的な国際規範となり、したがって国際 連盟にあっては、残存する少数の帝国といえども帝国の制服(ユニフォーム)ではなく国民衣裳(コスチューム)を身にまとって出席した。第二次大戦の地殻変 動をへて、国民国家の潮流は満潮に達した。そして一九七〇年代半ばまでには、ポルトガル帝国すら過去のものとなった。

ベネディクト・アンダーソン(白石さや・白石隆訳)
『増補 想像の共同体 ナショナリズムの起源と流行』NTT出版

 今年はコスチュームカフェの妹分(?)イベント・帝国メイド倶楽部が五月でなくて九月なもので間隔が開いて、先週のコスカに行けなかった筆者は甚だ残念 でなりません。ところでコスチュームカフェって「制服系同人誌即売会」とカタログの表紙とかに書いてありますよね。だけど「制服」はユニフォームであって コスチュームとは違うんでないかい、などととつらつら考えている時、引用した一節が目に留まったのでした。
 引用元は、ナショナリズムについてのもはや古典となった名作です。「国民」という、一見あたりまえすぎる自明のように思われる存在が、歴史的にどのよう に形成されたかを追っています。そして「国民」とは、とどのつまり人々の想像力によって、会ったことも話したこともない人々を画然とした集団の同胞と考え ることなのだと説明しています(サイトにブルーリボン貼り付けている人のうち、何人が横田さんの知り合いだったのでしょう?)。読んでおいて損はない一冊 です。
 本書は学術書ですが、極めて読みやすいのが特長で、一つには各々の章が大体30頁くらいの長さである程度纏まった内容になっていることもその理由かと思 います。引用部は第7章の冒頭です。様々な民族を一つの帝国(ロシア帝国、オスマン帝国、大英帝国etc)に纏め上げることを「制服」に例え、民族ごとの 独自性を主張することを「衣裳」と表現しているわけです(原書を見ていませんが、「国民衣裳」が national costume の訳なら、「民族衣装」の方が普通の言い方でしょうが、他の部分との整合性からこうしているのでしょう)。ナショナリズムが興隆し、国民国家が国のあるべ き姿と考えられるようになってくる19世紀に、旧来の王朝がどう対応しようと努力したかを描いた前章を承けての表現です。つまり、ユニフォーム=帝国はコ スチューム=国民国家に敗れたわけです。
 それにつけても、「メイドさん」イベントに命名するのに、「帝国」の二文字を冠したスタッフの慧眼には、筆者は脱帽せざるを得ないと感じていま す。・・・年二回とかやりませんか? がんばって新刊作るから(笑)。

(2003.2.22.)

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