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今週の一冊 第55


今週のハプスブルク家

ウィーン宮廷の作法には、ときにひどく奇妙なものがある。たとえば食事のときにも手袋を はめ たままでいるとか、靴は一度だけ履いて、下女に下げ渡してしまうとかいう規則である。靴に関していえば、召使い用の靴を皇后が履きならしているようなもの で、軍人が長靴を従卒に履きならさせているのを考えれば、まったく滑稽な話である。

ジャン・デ・カール(三保元訳)『麗しの皇妃エリザ ベト オーストリア帝国の黄昏』中公文庫

 先週名前が出てきたりもしましたが、ヨーロッパ史上もっとも著名な皇帝家・ハプスブルク家の君主フランツ・ヨーゼフ1世(在位1848〜1916)の皇 后エリザベト(1837〜1898)の生涯を描いたのが本書です。ハプスブルク家はヨーロッパ切っての名門でしたが、19世紀になるとオーストリア帝国は 他の国々に後れを取るようになり、先週の本にもあったように領内の様々な民族が独立や自治を求め、帝国は解体の危機にさらされつづけました。その厳しい時 代、皇帝フランツ・ヨーゼフ1世が心から愛したのが妻エリザベトでした。しかし自由を愛するエリザベトと伝統と格式に固執する姑の対立は激しく、のちには 皇太子が謎の死 を遂げるなど、家庭生活も厳しいものでした。エリザベトは宮廷生活を厭い、ひたすら各地を旅して回るようになりますが、最後は自らもテロリストの兇刃に倒 れることになります。
 さて引用部はそのハプスブルク宮廷の格式のややこしさを描いた一節。侍女やメイドさんが女主人のお下がりを貰うというのはいつでもどこでもよくあった話 ですが、毎日靴を新調しては召使いにやってしまうとはさすがハプスブルク家、イメルダ夫人の及ぶところではありません。エリザベトはこのようないささか不 合理な格式に耐えられず、旅に逃避することになったのでした。使用人の話はあまり出てきませんが、この時代に関心のある向きには、面白く読めるでしょう。

(2003.3.1.)

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