今週のハプスブルク家 ウィーン宮廷の作法には、ときにひどく奇妙なものがある。たとえば食事のときにも手袋を はめ たままでいるとか、靴は一度だけ履いて、下女に下げ渡してしまうとかいう規則である。靴に関していえば、召使い用の靴を皇后が履きならしているようなもの で、軍人が長靴を従卒に履きならさせているのを考えれば、まったく滑稽な話である。 ジャン・デ・カール(三保元訳)『麗しの皇妃エリザ
ベト オーストリア帝国の黄昏』中公文庫 さて引用部はそのハプスブルク宮廷の格式のややこしさを描いた一節。侍女やメイドさんが女主人のお下がりを貰うというのはいつでもどこでもよくあった話 ですが、毎日靴を新調しては召使いにやってしまうとはさすがハプスブルク家、イメルダ夫人の及ぶところではありません。エリザベトはこのようないささか不 合理な格式に耐えられず、旅に逃避することになったのでした。使用人の話はあまり出てきませんが、この時代に関心のある向きには、面白く読めるでしょう。 (2003.3.1.) |