今週の一冊 第62


今週のご奉仕

 大阪国防婦人会がエプロンを着て集まることにしたのは奇抜ながら卓見であった。エプロ ンは当時の言い方、正確にはカッポウ着だが、今やカッポウ着は国防婦人会のシンボルであり、活動姿勢を端的に表現した。
 当初、彼女らは出征・入営兵士にお茶の接待をするためにカッポウ着のまま薬缶をさげて港へ行ったにすぎなかった。(中略)だがカッポウ着の奉仕姿は市民 に予想外の好評を博す。会員は奉仕時のみならず、そのまま堂々と街頭に出るようになった。大日本国防婦人会に発展して、陸軍当局も「エプロンこそ国防婦人 会の精神」と持ち上げる。こうして正式の会服となる。
 カッポウ着は台所の労働着である。制服という概念とはほど遠い。それをあえて制服にしたところに面白さがある。

藤井忠俊『国防婦人会 ―日の丸とカッポウ着―』岩波新書

 「国防婦人会」というのは、昭和のはじめ、満洲事変で日本が一種の祭り状態(2ちゃん用語)にあるなかで生まれた団体です。そもそもは大阪の主婦たち が、戦 地に赴く兵隊さんを慰問したり献金を集めたということから始まったものでした。しかしそれがメディアに取り上げられて評判になり、軍当局も注目するところ となります。そして満洲事変以後の軍部の台頭のなかで国防婦人会は当局の後押しを受けて組織を拡大させ、1941年には会員は一千万人にも達します。最終 的には大日本婦人会という形に発展解消し女性は強制加入となってしまうのですが、いわば「小さな親切」が「大きなお世話」になってしまった、「奉仕」が 「義務」になってしまった歴史的事例であります。
 その国防婦人会の象徴が割烹着だったんですね。ゲームのお蔭で「和服+割烹着」という衣装への「萌え」志向も強まっているようですが、実は割烹着にはそ うい う暗い過去があったのだというお話です。教育改革の話を聞くにつけ、奉仕活動は義務づけるものじゃないと思う今日このごろなのでした。

(2003.4.21.)

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