今週の一冊 第68


今週の高給取り

谷川茂次郎という人物はという人物は、関西の新聞界ではだれひとり知らぬもののない、ま こと に異色ある名物男であった。(中略)谷川は、紙代のしはらいの悪い中小新聞に金を立て替えたりなどして、たちまちに財を成して、ひとかどの大金持ちになっ た。(中略)彼は文盲で目に一丁字もなかった。そこで、学校出のインテリ家政婦を、月給百円という当時としては全く破格の高給でやとい、これに新聞や本を 読ませ、のちには自分でも紫野の大徳寺の和尚から、習字の手習いをうけたという。

内川芳美『新聞史話』社会思想社

 一般的なイメージからすると、使用人と雇用主では普通雇用主の方が教養があるものだと思うものでしょうが、何事にも例外はあるというお話。引用したのは 日本の新聞の歴史について書かれた本の一節ですが、新聞の用紙を取扱う中でのし上がった男の一挿話です。新聞業界に食い込んで財を成した男が文盲だったと いうのがそもそも冗談みたいな話であります。なにせ物語風な本なので、これが一体いつごろのことなのか分からないのですが、明治の後半頃ではないかと推測 されます。で、その頃の月給百円というのを現在の貨幣価値に換算しますと、ざっと2万倍くらいになります(物価ではなく給与ベースでの換算)。つまり月給 二百万円のインテリ家政婦! 当時の女性でこれほどの給料を取っていた人が他にどれだけいたのでしょうか。ともあれ、成り上がりの金持ちならではの逸話といえるでしょう。

(2003.6.7.)

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