今週の階級差別 しかしもっと別種の深刻な問題があった。この問題にこそ西側の階級の違いにかんするほ んと うの秘密がある。すなわち、ブルジョア出身のヨーロッパ人が、たとえ自分が共産主義者のつもりであっても、よほどの努力をしないかぎり、労働者階級と自分 を対等だとみなすことができない理由がそこにあるのだ。それはつぎの短く恐ろしい言葉に要約される。この言葉は昨今では口にされないが、私の子どもの時代 には半ば公然と使われたものだ。その言葉とは、下層階級は悪臭がするというものだった。 (中略)年はもいかないうちに労働者階級の肉体について何となくいやらしいものだという観念にとりつかれると、労働者にはできる限り近づかなくなるものな のである。(中略)そして、たとえば召使いのように、まったく清潔だとわかっている「下層階級」の人びとにもかすかなむかつきを感じたものだった。彼らの 汗の臭いや皮膚のきめそのものが、ふしぎと自分たちのものとは異なってみえた。 ジョージ・オーウェル(高木郁郎・土屋宏之訳) イギリスは階級社会であり、メイドさんの存在もその背景ぬきには考えられない存在です。その階級社会ゆえの人間の思考パターンをオーウェルは指摘してい るわけですが、一般に英国のような階級社会ではないとされる現在の日本に住む我々においても、引用部のような思考のパターン(差別と言い換えてもよいで しょうが)は無縁ではないように思われます。 本書でオーウェルは、労働者階級をこのように偏見のまなざしで見ている中産階級(彼自身もここに属する)は次第に解体しつつあり、社会主義がより人間的 なものに変わることで、労働者階級と中産階級を共に自らの陣営に取り込み、ファシズムの打倒が可能になるのだと主張しています。しかしその後の歴史の歩み とオーウェルの軌跡を見たとき、本書の主張をもとに考えるべき事はなおも数多くあるのではないかと思うのです。 (2003.7.20.) |