今週の一冊 第76


今週のフェミニズム(連載6クール終了記念特別編)

 歴史的に言うと家事使用人のあとで主婦という社会的存在がでてくる。主婦というのは実 はか つて家事使用人がやっていた労働をやっている人です。主婦労働を家事使用人に任せることができるというのは、話の順序が逆なんで、家事使用人のやっている 労働を後で主婦がやるようになる。これだけの話です。

上野千鶴子『資本制と家事労働 マルクス主義フェミニズムの問題構制』海鳴社

 メイドさんの存在をよりよく理解するためには、近代家族論や女性学の理解が不可欠であると筆者はつねづね考えておりますが、日本の研究者でこの分野の代 表的研究者といえば、やはり上野千鶴子氏の名を挙げることにどなたも異存はなかろうかと思います。上野氏の構築したマルクス主義フェミニズム理論の入門と して好適な一冊です。もっと本格的に取り組みたい向きは、『近代家族の成立と終焉』であるとか、或いは『家父長制と資本制』(どちらも岩波書店)等を読ま れると宜しいでしょう(今回は時間がなくて・・・)。
 さて、ここでちょっと個人的な思い出話を一席披露したいと思います。筆者は以前、上野氏の近代家族についての授業を受けたことがあるのですが、初回はこ の分野についての内外の様々な文献を記載したリストを配り、代表的なものを説明するという内容でした。話を聞いていて、筆者はふとあることに気がつきまし た。日本の学者を紹介するとき、上野氏は「瀬地山さん」とか「落合さん」とか、みな「さん」付けで呼んでいたのですが、どういうわけかただ一人、呼び捨て にされていた例外がいたのです。それこそ誰あろう、先週紹介の一冊で鎌やんと対談していた、宮台真司氏に他ならなかったのであります。上野氏は授業の最後 に学生に紙片を配り質問や感想を書かせますので、筆者は迷った末、匿名でこう記しました。
「なんで宮台だけ呼び捨てなんですか?」
 そうしたら次の週、上野氏は筆者のこの馬鹿な質問にも、懇切にも答えて下さったのです(これが読み上げられた瞬間、教室は爆笑の渦に包まれました)。上 野氏が苦笑混じりに? 述べられたことには、
・宮台は大変に著名であるから。
・親愛の情を示して。
 だそうですが、どこまで真意なんだか分かったものではありません。近代思想に詳しい仙地面太郎氏は、上野氏が宮台のことを低く評価していると主張されて ましたな。え、筆者の見解? 上野先生には2単位の恩があるので客観的な評価は致しかねます。
 ともあれ、メイドさんを語る基礎教養として、フェミニズムを踏まえた家族論は、是非知っておくべきことだと思います。

(2003.8.6.)

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