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今週の一冊 第84


今週の白黒

黒は、もっていた意味の多くが次第に性格をしぼりこみ、自己抹消の色になっていった。そ して 奇しくも黒は目立つものと目に見えないはずのものとの間を媒介するようになった。こうして黒は(フレッド・デイヴィスの用語によれば)まさに「アイデン ティティ・アンビヴァレンス(両義的自我同一性)」の色になる。日本の芝居では裏方、または、人形師が黒を着るが、その黒は観客は彼らを見ないという約束 の印になっている。黒子たちは「目に見えない透明人間」なのである(これは十九世紀の召使いが黒い衣服を着ていた現象の裏にあった心理に通じているだろ う)。

ジョン・ハーヴェイ(太田良子訳)『黒服』研究社

 表題の通り、「黒い服」についてその社会的意味の変遷を語った世界初(らしい)本です。黒い服、といえば本サイトをご覧になられるような方ですと、メイ ドさんの衣裳が思い浮かぶことでしょうが(「メイド服は黒でなきゃヤだっ!」という人は結構多いですよね)、本書は原則として男の衣裳について論じた本で すので、その点はお含みおきください。
 なぜ黒い服を論じた本書が男の衣裳中心かというと、黒い服はもともと(喪服のように)死や悲しみなどをあらわしていたのが、やがて地位や権力などを表す ようにもなっていった、そしてその傾向は19世紀英国で男のファッションが黒中心になることで極地に達したことにあります。一方で19世紀英国の地位ある 女性の服装は白であり(メイドさんのエプロンを除く)、貞淑さなどを表していましたが、これが男女差別を可視化したものであることは明らかですね。19世 紀の黒い服の流行の後、力を表し、それでいて自己抹消という黒の表象は、ナチスのSSに引き継がれることになります。
 本書をものしたハーヴェイ氏は小説家でもあるそうで、本書は多くの小説を資料として活用しています。19世紀の資料としてはディケンズが縦横に活用さ れ、文学論としても面白そうです。黒い服の男が一家を支配する19世紀英国を描いた「イギリスの暗い家」の章は、この時代を知る上で様々な示唆を与えてく れ、例えば本連載71回 のハイアムの本の指摘などと引き比べてみても面白いと思います。
 というわけで、直接メイドさんの話ではないけれど、その気になれば巻末の高山宏氏の解説ともどもいろいろ読みどころのある本です。『続黒服・女性編』が 出れば、それに越したことはないですが。

(2003.12.8.)

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