今週の一冊 第93


今週のアルバイト

(「ベルリンにおける女性の職種・賃金・休業期間」という表につけられた注)
 女中は食つきだが、給与は年に8-20ターラー。そのほか売春によって少ない給与を補わせるためにしばしば夜の外出用に家の鍵が与えられる。ドレスデン についてのアレキサンダー・シュネーアの報告によれば女子奉公人の賃金は3ヶ月に4-8ターラーである。

良知力『女が銃をとるまで 若きマルクスとその時 代』日本エディタースクール出版部

 社会思想史の専門家である著者の文章を、没後にまとめた本です。引用したのは、本全体と同じ題の論文で、「一八四八年女性史断章」と副題がつけられてい る通り、「諸国民の春」といわれたものの結局は失敗に終わった1848年革命の前後の、ドイツを中心とした女性の置かれた状況を描いています。表題のよう に、解放を求めて積極的に革命に身を投じ、女性にも武装する権利を求めて銃を取った女性たちがいたのですが、この革命は「ある意味では裏切りの歴史」であ り、最底辺の「賤民労働者」や少数民族を切り捨てていったのですが、女性もまた「市民」の中に含まれず、切り捨てられていったのでありました。
 ドイツで、というか当時のドイツは統一前で、プロイセンはじめ諸領邦に別れていたのですが、そこでの女性の地位は、英国のそれと比べてもおそらくは一層 苛酷であったでしょう。プロイセンは政治的にも経済的にも、英仏と比べ“遅れて”いたのですが、そのくせ警察機構だけはやたらしっかりと機能し、女中のよ うな都市への貧しい流入者を厳しく取り締まっていたのでした。
 引用したのは女性の給与についての表につけられた注釈で、様々な職業について日給が記載されているのですが、女中は食つきで日給ではないため、別に引用 部のように記されています(ベルリンでは女中は通いが多く、また経済的貧困から女中の九割は結婚できなかったとも言われているそうです)。この女中の給与 を他の職業と比較してみると、給与の高いのが洗濯女で、統計により差異がありますが、日に10〜15ないし17.5ジルバーグロッシェン稼げたそうです (1ターラー=30ジルバーグロッシェン)。ただし休業期間が年に4ヶ月もあるので、仮に残りの毎日働いたとすると、年間80〜140ターラーになりま す。逆に最も少ないのは紡績女工で、日給1.75〜2.5(休業2ヶ月)もしくは3〜4(休業3ヶ月)という値が示されています。なお、男の給与と比べる と、女性のそれは大体半分くらいというのが相場だったようです。
 こうも給与が低いと、女工たちは副業として街に立たなければならなくなるのですが、女中さんもその例外ではなかったというお話。しかも鍵を与えられてい るということは、雇い主公認ということなのでしょうか。つまり夜伽は別料金となっております、じゃなくて、そういった兼業が周知であったということに何と も言い切れないものを感じます。
 他にもマルクスの1848年革命の認識や、ヘーゲル哲学の後継者たちの流れなど、いろいろと勉強になる内容が盛り込まれた一冊です。

(2004.2.28.)

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